爽やかマイノリティ-1/2の騎士
初野晴、おすすめの作家です。
この『1/2の騎士』、700頁弱と、割と分厚いので二の足を踏んでしまう方もいらっしゃるかと思います。
ですが、一度読み進めればあっという間に引き込まれること間違いないです。
ちなみに著者の初野晴の代表作はマンガ化なんかもされている『ハルチカシリーズ』かと思います。
あらすじはこのような感じ。
「“幸運のさる”を見つけた中学生が次々と姿を消し、盲導犬は飼い主の前で無残に殺されていくーー。
狂気の犯罪者が街に忍び寄る中、アーチェリー部主将の女子高生・マドカが不思議な邂逅を遂げたのは、この世界で最も無力な騎士だった。
瑞々しい青春と社会派要素がブレンドされた、ファンタジックミステリー。」
重度の喘息をかかえながらもアーチェリー部主将を務めている女子高生マドカと女装に血盟を注ぐ男の幽霊サファイア。
二人の軽妙なやりとりから繰り出される謎解きが読みやすさを産み、背中を押されるようにして読み進めてしまいます。
一方で少数派の犯罪者たちによって行われる殺人。安易な殺人ではなく、一風変わったこだわりを持って犯罪を行っている。
青春ストーリーと思って読むと痛い目をみるくらいには社会派な要素が多く取り入れられております。
昨今ダイバーシティだ、LGBTだなんだと言われておりますが、そこにいち早く反応した作品なのかもしれません。
重たさと軽妙さ、青春ファンタジーを兼ね備えた、おなか一杯になる一冊かと。
是非皆さん読んでみてください!
逆転劇と言うには生ぬるい-その女アレックス(原題alex)
徐々に趣味嗜好が明らかになっている気がしています。
今回も暗い本の紹介です。
文春文庫から、2014年9月に出版された『その女アレックス(原題alex)』、著者はピエール・ルメートルで翻訳は橘明美です。
あらすじは下記の通り。
「貴方の予想はすべて裏切られる――。
おまえが死ぬのを見たい――男はそう言って女を監禁した。檻に幽閉され、衰弱した女は死を目前に脱出を図るが……。
ここまでは序章にすぎない。孤独な女の壮絶な秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し、慟哭と驚愕へと突進する。
「この作品を読み終えた人々は、プロットについて語る際に他の作品以上に慎重になる。それはネタバレを恐れてというよりも、自分が何かこれまでとは違う読書体験をしたと感じ、その体験の機会を他の読者から奪ってはならないと思うからのようだ」(「訳者あとがき」より)。」
主人公は二人。
周りの男性をすぐに虜にしてしまう女性、アレックス。本書はこのアレックスが誘拐されるところから始まります。
「くたばるところを見てやる」としか言わない誘拐犯。ただ裸の状態で監禁されたままのアレックス。ここから同逆転劇が始まるのか、見ものです。
もう一人の主人公は、著しく背が低い刑事、カミーユ。最愛の妻を、自分が担当した誘拐事件で亡くし、第一線から退いていたが、上司の計らいにより再度誘拐事件の最前線に立つことに。精神的にもブレがあるが、被害者のために最善を尽くす点がとても強調されているキャラクタです。
考えられないほど狭い檻に閉じ込められ、理不尽な体勢で身動きもとれずまともな食事も与えられないアレックス。さらには鼠も放たれ、いつ身体をかじられるかもわからない極限な状況。
ここから大逆転劇が始まっていきます。
一方カミーユサイド。
手がかりがまるでなく、犯人も被害者の女性の素性もなかなか明らかにされない。そんななかでどう犯人を追いつめていくのか。、、、という点が見どころではなく、容疑者を取り調べするシーンに魅力が詰まっています。
論理的にだが人情にも訴えかけるように詰めていくシーンは圧巻です。
ただ一点注意しなければならないのが、グロいシーンがそこかしこに出てきます。
こう、、背筋が冷えるようなシーンも多いです。
もしそういったスプラッタな感じが大丈夫な方であればとても楽しめるかと思います。
是非読んでみてください。
技術に裏打ちされた圧倒的世界観-Hello Sleepwalkers
今日は、バンドの紹介をします。
「Hello Sleepwalkers」
ご存知でしょうか。
あまり知らない人も多いんじゃないかと思います。
アニメ「ノラガミ」でタイアップされたことがあるので、聞いたことあるくらいの方はいるかもしれません。
さわやかな声の男声。
一見すると、最近よくいる売れ線狙いのロキノン系ロックバンド。
しかしよく聴いてみると他の若手バンドとは一線を画していることがわかります。
まず構成ですが、男女ツインのギターボーカル、リードギター、ベース、ドラムの5人です。
たまに見るギター3人の編成ですね。大は小を兼ねるとは言いますが、殊バンドにおいてはそれが通用しません。むしろ音数が多くなりすぎてごちゃごちゃ聴こえてしまう可能性のほうが高いです。
ですが、このバンドはそんなことがない。3本目のギターが基本的にシンセのように飛び道具として使われているからです。
言葉にすると簡単そうですが、この飛び道具を違和感なくバンドサウンドに馴染ませるには相当なテクニック、音階の認識能力が必要となってきます。
この動画を見てもらえればわかると思うのですが、涼しい顔してとんでもない技術力を披露しています。(あまり音楽に明るくない方にも伝わるといいな、、、)
また、音作りに関してもロックバンドというよりかはちょい前のメタルのような、尖った音がちらほらと。ビジュアル面でもそうですけど、KANABOONとかSHISHAMOみたいなおとなしそうなバンドとはまるっきり別方向を向いているな、と私はそう感じました。
他にもドラムの演奏方法がやべぇ、とか、女声の力強さがすげぇとかあるんですが、専門的になりすぎてもあれなので、曲の紹介をして締めようと思います。
両ボーカルの力強さが存分に発揮された楽曲です。また冒頭に挙げた「円盤飛来」とビートがまったく異なることがわかるかと思います。
曲としてのピークもわかりやすくノリやすい。僕はこの曲でハロスリ(通称)が好きになりました。
ザ・飛び道具。
第一印象で冷たさを感じられるかと。
聴衆に寄せ、聴いている人たちの感情を歌うロキノンバンドとまさに一線を画す、ハロスリの真骨頂がここにあります。
普段の生活では見ることがないような、そんなイメージを想起させることができる、稀有なバンドだと思います。
1曲の中でもめまぐるしくピークが移り変わることを肌で感じてみてください。
オススメバンド紹介でした。
才覚たちの妙-黒猫の三角
以前書いた、森博嗣の『すべてがFになる』の別シリーズ1作目、『黒猫の三角』の紹介をしたいと思います。
Vシリーズといわれる連作ものになっており、S&Mシリーズとの相関もありますが、そこを書いてしまうとネタバレになってしまうので、ご興味ある方は読んでみるor調べてみることをお勧めします。
『黒猫の三角』あらすじはこちら。
「1年に一度決まったルールの元で起こる殺人。今年のターゲットなのか、6月6日、44歳になる小田原静江に脅迫めいた手紙が届いた。探偵・保呂草は依頼を受け「阿漕荘」に住む面々と桜鳴六画邸を監視するが、衆人環視の密室で静江は殺されてしまう。
森博嗣の新境地を拓くVシリーズ第1作、待望の文庫化」
こちらは『瀬在丸紅子の事件簿〜黒猫の三角〜』のタイトルでフジテレビ系列の『赤と黒のゲキジョー』枠でテレビドラマ化されました。
主演の壇れいが役にぴったりはまっていたのが印象的でした。
はい、相も変わらず密室殺人です。
ですが今回もキャラクタが魅力的!!!!!
密室トリックもさることながらキャラクタに引き込まれます。
前回と同じように一人ひとり焦点を当て紹介していきます。
元旧家の令嬢にして自称科学者。本シリーズの探偵役。かつては旧家の令嬢であり、桜鳴六画邸と呼ばれる屋敷に住んでいたが、瀬在丸家が落ちぶれてしまったことで、現在は市が管理する桜鳴六画邸の敷地内にある無言亭と呼ばれる小屋で、一人息子と執事と共に、細々と暮らしている。
令嬢らしく気品のあるしゃべり方をするが、時に傲岸不遜な口調になったり、一日もしくは一時で性格や機嫌が全く変わってしまうことも多々ある。保呂草曰く、彼女の思考は常に変化しており複雑なので一寸先も読むことができないらしい。その思考能力の一端として、S&Mシリーズにおける犀川創平と同様に「指向性が卓越している」と評されている。
そうです。天才です。論理的思考に裏打ちされた推理は大胆にして緻密な反面、世間知らずなお嬢様的資質が災いしてしばしば危機に陥ることもある、というS&Mシリーズの萌絵のような面があります。
保呂草潤平
無言亭の近所に位置するアパート、「阿漕荘」の住人。私立探偵と便利屋を兼業している。また、美術品に関しても精通しており、鑑定士を肩書きにすることもある。
他人の前では飄々とした態度をとるが、非常に頭のきれる冷静沈着な人物でもある。また、便利屋の仕事では盗品の売買や美術品の盗み、詐欺など犯罪行為も数多く行っている。それゆえに、錠前破りや格闘・護身術のエキスパートである。美に対しては独特の価値観を持っており、単なる所有欲や売買以外の目的で動くことも多い。長く外国を回っていたため、海外に知り合いが多く、また人脈も多い。
紅子に対して盲目的なところがあり、プロポーズめいたことを口にしたことも。また、彼女のためにこのシリーズを書いたことを告白している。
ちなみにこのVシリーズ、全編を通して保呂草の視点から描かれています。(後々この設定がトリックとなることもあるのが面白いです)
小鳥遊練無
無言亭の近所に位置するアパート、「阿漕荘」の住人。国立N大学医学部生。女性的な性格の持ち主で、男性でありながら女装癖があり、スカートが広がるファンシーな服装を好む。その一方で少林寺拳法の心得もあり、その実力はかなりのもの。
顔立ちがかわいらしく、比較的小柄で声も高い上に女装が似合いすぎているため、初対面の者には女装しているということが気づかれず、テレビ局などでは度々スカウトされるほど。本人曰く「スカートを履いていると戦闘の際、足の運びが分かりづらくなり、対戦相手に対して有利になる」とのこと。
紫子とは、互いに異性を感じていないかのようにつきあっており、「れんちゃん」と呼ばれている。自身の名前にちなんでのことかは不明だが、少々ふざけた発言の際、語尾に「 - なりね(なり)」とつけることがある。
女装癖かわいい系男子、登場です。もうすでに胸焼けしそうなキャラクタ勢ですね、、、
香具山紫子
無言亭の近所に位置するアパート、「阿漕荘」の住人。私立女子大生で文芸学部だが、ろくに大学には行っていない。男っぽい性格をしており、長身でショートカット、ボーイッシュな服装を好むため、男に間違えられることも多々ある。関西弁を操る。
保呂草に想いをよせている節があるが、自身でも今ひとつ確信できていない。両親は芦屋に住んでおり、アルバイトはしていない。練無に対して保護者気分でおり、実際に練無の感情面で大きな支えとなる場面もある。ホラーやスプラッタが苦手。練無からは「しこさん」、保呂草からは「しこちゃん」と呼ばれている。
メインは上記4人により話が進んでいきます。
他にも重要度で言えば紅子の息子や元旦那も高いのですが、ネタバレをしては元も子もないので、割愛させていただきます。
S&Mシリーズと異なる点はテンポ感にあります。
勢いよくがーっと進んでいくのがS&Mシリーズ、ちょいとスローにオシャレに会話を楽しみつつ謎が解けていくのがVシリーズ。実際『黒猫の三角』の中には注意しないと気付かないような謎がいくつもちりばめられています。
『すべてがFになる』が好きになった人であればお気に召すかと思います。
そのうち別シリーズの紹介もしようと思っています。
それでは!
理不尽の果てに-イノセント・デイズ
2017年3月1日に新潮社より出版されました、「イノセント・デイズ」
著者は早見 和真です。
・早見 和真について
デビュー作は『ひゃくはち』で、自らの経験を基に書き上げた名門高校野球部の補欠部員を主人公とした物語。
今回ブログで取り上げるのは、デビュー作と打って変わり、暗く、重たいストーリーとなっております。
・『イノセント・デイズ』について
あらすじはこんな感じ。
「彼女はなぜ、死刑囚になったのか――極限の孤独を描き抜いた衝撃の社会派ミステリー。
田中幸乃、30歳。元恋人の家に放火して妻と1歳の双子を殺めた罪で、彼女は死刑を宣告された。凶行の背景に何があったのか。産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人、刑務官ら彼女の人生に関わった人々の追想から浮かび上がる世論の虚妄、そしてあまりにも哀しい真実。幼なじみの弁護士たちが再審を求めて奔走するが、彼女は……筆舌に尽くせぬ孤独を描き抜いた慟哭の長篇ミステリー。」
私がこの本を手に取ったきっかけは、帯でした。
「読後、あまりの衝撃で、3日ほど寝込みました、、、、」
こんなことを書かれてしまったら、なんだと!と思うのが人間の常。そんなにか!と。
かくして内容はどんなものなのか。
元恋人の妻と子供を焼死させた死刑囚の田中幸乃。
彼女と関わりのあった人々から語られるように物語は進んでいきます。
残忍な死刑囚の半生はどんなものだったのか。どんな人生を歩んだら死刑囚になってしまうのか。徐々に明らかになる真実とは。
生い立ちや環境、周りの人々に救いは無かったのか。
世にはびこる理不尽な陽と陰の差。
主人公がどうなってしまうのか。どう締めるのか。気になってしまいどんどん読み進められることと思います。
怒り悲しみやるせなさ、複雑な感情を呼び起こさせられる、そんな小説です。
勧善懲悪や明るい結末の物語に飽きてきたら、こういった重たいストーリーを読んでみるのも、いいんではないでしょうか。
(重たすぎるかもしれませんが)
是非皆さんも陰鬱な気分になってみませんか。
交通経済学
たまには真面目なお堅い本の紹介でもしようかなと思い、実家の本棚を見に行った際にこんな本を発見しました。
『交通経済学』山内弘隆・竹内健蔵著
学生の時、経済学を専攻していたこともあり地域経済学観点で何かを学ぼうと思った際に師事していた教授からオススメされた一冊です。
「交通インフラがどの程度の効用をもたらすのか」ということを突き詰めて解説してある内容です。
噛み砕いて言えば、「東京と石川を新幹線でつないだらどんな影響が出るだろうか」ということを数字を用いて表していく、ということです。
経済学書ではありますが、内容が内容だけにとっつきやすく、地域経済学の中では入りやすいのではないかと思います。
随所に用いられる言葉は専門的なものを少なくないため、経済学をかじっていない方は適宜調べていかなければならないですが、意外と面白いので、是非。
軽量級重工ファンタジー-ブルータワー
ご無沙汰しております。
今日は石田衣良の『ブルータワー』の紹介をします。
・あらすじ
悪性の脳腫瘍で死を宣告された男の意識が、突然200年後にタイムスリップする。そこは黄魔という死亡率87%のウイルスが猛威を振るう、外に出ることは死を意味する世界。人類は「塔」の中で完全な階級社会を形成して暮らしていた。その絶望的な世界に希望を見出すため、男は闘いを決意する!長編SFファンタジー。
・石田衣良について
最も有名な作品は、やはりIWGPでしょうか。池袋ウエストゲートパーク。一昔前にドラマ化され一世を風靡した作品ですね。TOKIOの長瀬がカッコよくて誰しもが一回ワルにあこがれていましたね。
この作品は主人公の話し言葉の文体で話が進んでいく点が、『ブルータワー』と大きく違うところでしょうか。
まるっきり文体を変えて書ける点は凄いと感じました。
・本作について
9.11に触発され、書き下ろしたという作品。
脳腫瘍で余命わずかとの宣告に、追い討ちをかけるように妻の不倫を知らされ、失意に沈む瀬野周司がタイムスリップした200年後の東京は、ウイルス戦争を経た死の世界。病原菌から隔離された「ブルー・タワー」に閉じこもって暮らす人々と、ウイルスが蔓延する地表での生活を強いられる「地の民」が、救いのない殺戮戦争をくり広げる。
周司に課せられた役回りは、荒廃した世界の救世主。あまりの重荷に、自分に何ができるのか自問自答する周司だが、命を投げ捨てて闘いにおもむく人々の姿に背を押され、愛する人に支えられ、徐々に自信を回復し、使命を全うすべく突き進んでいく。
判りやすいまでの悪と判りやすいまでの正義。男女のどろどろとした部分が描かれつつも主軸は世界が崩壊していく様。主人公のさっぱりとしつつもどこかメンヘラチックな性格は好みが分かれるところでしょうか。
とはいえ、作品のモチーフと異なり軽快に読み進んでいける作品となっております。
ただ個人的には、石田衣良が書く人物は爽快なキャラクターが多いので、現実という背景があった方が感情移入しやすいかな、と感じてしまいました。
軽めのSFが読みたい方は是非!