現代の先にある幸せとは-ユートロニカのこちら側
著者:小川哲
出版:早川書房
頁数:336頁
こんな方にオススメ
・答えのない問いが好きな方
・哲学にも興味がある方
・未来のテクノロジーなどが気になる方
ザ・サイエンスフィクション。
豊かな人生とは何か。何を犠牲にしても、芳醇な生活を手に入れたいのか。
そんな問いを投げかけてくる小説です。
あらすじ
アガスティアリゾート――マイン社が運営する、サンフランシスコ沖合の特別提携地区。
そこでは住民が自らの個人情報――視覚や聴覚、位置情報などのすべて――への無制限アクセスを許可する代わりに、基礎保険によって生活全般が高水準で保証されている。
しかし、大多数の個人情報が自発的に共有された理想の街での幸福な暮らしには、光と影があった。
リゾート内で幻覚に悩む若い夫婦、潜在的犯罪性向により強制退去させられる男、都市へのテロルを試みる日本人留学生――SF新世代の俊英が、圧倒的リアルさで抉り出した6つの物語。
そして高度情報管理社会に現れる“永遠の静寂"(ユートロニカ)とは。
どうでしょうか。あぁ楽しそう!って思える方はこのあらすじで飛びつくかと思います。
自分が何しているのか、どこにいるのか、なにを聞いているのか、全てのプライバシーを放棄した先に得られる豊かな生活。はたしてそれは本当の意味で幸せと呼べるのでしょうか。
自分に置き換えてみて考えてください。
友達と遊んでいるときも、恋人とのケンカも、一人で趣味に興じている時間も、全て見られてしまっている。私だったらもう発狂しますね。笑
そもそもこのブログを読んでくれている人は、一人で本を読むことが好きな方たちだと思うので、共感してくれると思っています。
本書はそんな豊かな生活を得ることのできる”アガスティアリゾート”にかかわり、「本当にこれは幸せなのだろうか」ということを問い続ける人たちの物語です。
その物語も短編集のようになっていて、つながりがあるものの独立した奮闘記になっています。
昨今ネットが普及しSNSが広まっていく中で、プライバシーの境界が曖昧になっており、この小説はそんな世間に一石を投じるようなものだと感じました。
導入部の序盤はのめりこみにくいですが、終盤はあっという間ですよ。