理不尽の果てに-イノセント・デイズ
2017年3月1日に新潮社より出版されました、「イノセント・デイズ」
著者は早見 和真です。
・早見 和真について
デビュー作は『ひゃくはち』で、自らの経験を基に書き上げた名門高校野球部の補欠部員を主人公とした物語。
今回ブログで取り上げるのは、デビュー作と打って変わり、暗く、重たいストーリーとなっております。
・『イノセント・デイズ』について
あらすじはこんな感じ。
「彼女はなぜ、死刑囚になったのか――極限の孤独を描き抜いた衝撃の社会派ミステリー。
田中幸乃、30歳。元恋人の家に放火して妻と1歳の双子を殺めた罪で、彼女は死刑を宣告された。凶行の背景に何があったのか。産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人、刑務官ら彼女の人生に関わった人々の追想から浮かび上がる世論の虚妄、そしてあまりにも哀しい真実。幼なじみの弁護士たちが再審を求めて奔走するが、彼女は……筆舌に尽くせぬ孤独を描き抜いた慟哭の長篇ミステリー。」
私がこの本を手に取ったきっかけは、帯でした。
「読後、あまりの衝撃で、3日ほど寝込みました、、、、」
こんなことを書かれてしまったら、なんだと!と思うのが人間の常。そんなにか!と。
かくして内容はどんなものなのか。
元恋人の妻と子供を焼死させた死刑囚の田中幸乃。
彼女と関わりのあった人々から語られるように物語は進んでいきます。
残忍な死刑囚の半生はどんなものだったのか。どんな人生を歩んだら死刑囚になってしまうのか。徐々に明らかになる真実とは。
生い立ちや環境、周りの人々に救いは無かったのか。
世にはびこる理不尽な陽と陰の差。
主人公がどうなってしまうのか。どう締めるのか。気になってしまいどんどん読み進められることと思います。
怒り悲しみやるせなさ、複雑な感情を呼び起こさせられる、そんな小説です。
勧善懲悪や明るい結末の物語に飽きてきたら、こういった重たいストーリーを読んでみるのも、いいんではないでしょうか。
(重たすぎるかもしれませんが)
是非皆さんも陰鬱な気分になってみませんか。
交通経済学
たまには真面目なお堅い本の紹介でもしようかなと思い、実家の本棚を見に行った際にこんな本を発見しました。
『交通経済学』山内弘隆・竹内健蔵著
学生の時、経済学を専攻していたこともあり地域経済学観点で何かを学ぼうと思った際に師事していた教授からオススメされた一冊です。
「交通インフラがどの程度の効用をもたらすのか」ということを突き詰めて解説してある内容です。
噛み砕いて言えば、「東京と石川を新幹線でつないだらどんな影響が出るだろうか」ということを数字を用いて表していく、ということです。
経済学書ではありますが、内容が内容だけにとっつきやすく、地域経済学の中では入りやすいのではないかと思います。
随所に用いられる言葉は専門的なものを少なくないため、経済学をかじっていない方は適宜調べていかなければならないですが、意外と面白いので、是非。
軽量級重工ファンタジー-ブルータワー
ご無沙汰しております。
今日は石田衣良の『ブルータワー』の紹介をします。
・あらすじ
悪性の脳腫瘍で死を宣告された男の意識が、突然200年後にタイムスリップする。そこは黄魔という死亡率87%のウイルスが猛威を振るう、外に出ることは死を意味する世界。人類は「塔」の中で完全な階級社会を形成して暮らしていた。その絶望的な世界に希望を見出すため、男は闘いを決意する!長編SFファンタジー。
・石田衣良について
最も有名な作品は、やはりIWGPでしょうか。池袋ウエストゲートパーク。一昔前にドラマ化され一世を風靡した作品ですね。TOKIOの長瀬がカッコよくて誰しもが一回ワルにあこがれていましたね。
この作品は主人公の話し言葉の文体で話が進んでいく点が、『ブルータワー』と大きく違うところでしょうか。
まるっきり文体を変えて書ける点は凄いと感じました。
・本作について
9.11に触発され、書き下ろしたという作品。
脳腫瘍で余命わずかとの宣告に、追い討ちをかけるように妻の不倫を知らされ、失意に沈む瀬野周司がタイムスリップした200年後の東京は、ウイルス戦争を経た死の世界。病原菌から隔離された「ブルー・タワー」に閉じこもって暮らす人々と、ウイルスが蔓延する地表での生活を強いられる「地の民」が、救いのない殺戮戦争をくり広げる。
周司に課せられた役回りは、荒廃した世界の救世主。あまりの重荷に、自分に何ができるのか自問自答する周司だが、命を投げ捨てて闘いにおもむく人々の姿に背を押され、愛する人に支えられ、徐々に自信を回復し、使命を全うすべく突き進んでいく。
判りやすいまでの悪と判りやすいまでの正義。男女のどろどろとした部分が描かれつつも主軸は世界が崩壊していく様。主人公のさっぱりとしつつもどこかメンヘラチックな性格は好みが分かれるところでしょうか。
とはいえ、作品のモチーフと異なり軽快に読み進んでいける作品となっております。
ただ個人的には、石田衣良が書く人物は爽快なキャラクターが多いので、現実という背景があった方が感情移入しやすいかな、と感じてしまいました。
軽めのSFが読みたい方は是非!
緻密な世界設計の折-新世界より
『新世界より』
2008年の日本SF大賞を受賞した作品です。
本作のあらすじは以下の通り。
「ここは病的に美しい日本(ユートピア)
子供たちは思考の自由を奪われ、家畜の様に管理されていた。
手を触れず、意のままにものを動かせる夢のような力。その力があまりにも強力だったため、人間はある枷を嵌められた。社会を統べる装置として。
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖(かみす)66町には純粋無垢な子供たちの歓声が響く。
周囲を注連縄で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力(サイコキネシス)の技を磨く子供たちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。」
ホラー作家として有名な貴志祐介が書いた、1,000頁を超える超大作SF小説です。
アニメ化やコミカライズもされているので、目にしたことある人もある程度いるんじゃないかなーと思います。
アニメ…
マンガ…
やけにこう…かわいいというか萌え絵に仕上がっています。
やはりこういう絵柄の方が売れるのでしょう笑
・貴志祐介について
『悪の経典』が最も有名なのではないでしょうか。
映画化もされ、その凄惨なストーリから一世を風靡したホラー小説です。
他にも、『青の炎』や『クリムゾンの迷宮』『天使の囀り』などホラー小説ファンなら一度必ず通るのがこの著者ではないかと思います。
彼の特徴は圧倒的な描写の緻密さにあると考えています。
文字が映像として頭に流れ込んでくる感覚。
一度、貴志祐介による描写を読んでしまうともう虜になってしまいます。
特に倒叙の作品。(犯人の視点で話が進んでいくもの)
あまりの緊張感に、手に汗握るとはこのことか!と思わされます。
・本作について
そんな、「ホラーといえば!」という作家が生み出したSF小説。
その内実は民俗学からSF、ホラー、ファンタジー、ミステリー、等あらゆるジャンルの要素を混ぜ込んだものになっています。
文庫版では上・中・下の3冊にわたる中で、序盤は牧歌的な風景描写・世界観の叙述から始まります。
その後、少年少女たちの冒険活劇へ。集団心理の怖さ・人種差別、またサイコパスの危険性についてなど様々な展開が待っています。
「新世界より」の名の通り、世界観が緻密に設計されており、そこを魅力に感じる方が多いようですね。
冒頭は少年たちの生活などのふれ合いが続くため、冗長に感じる人も少ないと言われますが、私はそんなことないと思っています。
それは貴志祐介の叙述の上手さと、世界観の説明の仕方にあります。
少年少女たちへの授業として、「呪力」がなんたるものか、また世界の成り立ちなどが説明されます。
まぁありがちではあるんですが、そのシーンが間延びしそうなタイミングで展開を変えてくる。
「昨日までいた少年がいなくなった。それも主人公以外気づいていない。」
これこそが本作品の命題です。
危険の芽をために集団がみな目を伏せること、はたしてそれは正しいことなのでしょうか?
また、過去の過ちを二度と引き起こさないことを重要視するあまりに人間性が欠落していくことは容認されていいのか?
「新世界より」に内包されている主張は多様です。
それこそ読んだ人によって捉え方が変わるでしょう。
是非、皆様も一度読み、どう訴えられかけるか、体感してみてはいかがでしょうか。
救いがないということはどういうことか-NieR RepliCant
こんにちは。
あおひとです。
皆様、Nier RepliCantというゲームをご存知でしょうか。
2010年にSQUQRE ENIXから発売されたRPGで、そのストーリーは世界設定が水面下でじわじわと話題を呼び、人気を獲得。
今では知る人ぞ知る名作としてその地位を確固たるものとしています。
そのニーアレプリカントとは、どんなゲームなのか、紹介していきたいとおもいます。
・圧倒的世界観
物語は東京から始まります。廃墟となった町で2人の幼い兄妹がなんとか生き延びていた。
その後、1300年の時が流れ舞台は”マモノ”と呼ばれる異形の脅威が蔓延る、中世のような世界へ。
心優しい兄は病に罹った妹を助けるため、喋る本、通称”シロ”と世界を駆け巡りマモノをなぎ倒していきます。
実際のゲーム映像を見るとよくわかるのですが、中世のような自然が多いノスタルジックな風景と現代の発展した技術のなれの果てがうまく融合しています。
それが独特の情景を生み出しています。
また、ストーリーはありがちなものかと捉えられがちですが、そう思った時点で製作者の思う壺にはまっています。
エンディングまで見て、その意味が分かります。プレイヤーを裏切ってくるこのストーリー病み付きになります。
また、周回前提のゲームであり、2周目・3周目で初めとは異なる視点でストーリーが展開していきます。
ここも嵌る人が多い要素となっています。
・音楽性
Nierを好きな人が口々に語る点が音楽性です。
圧倒的に救いがない世界(プレイしたらわかります)に馴染む壮大な楽曲たち。
大草原から、メカニカルな廃墟、またセンチメンタルなスローテンポバラードまで、多彩な音楽が主人公の旅路を盛り立てます。
実際に、ソフトが発売されて5年以上経ってからコンサートが開催され、即座に完売という事実があります。
如何にこのゲームの音楽が注目されているかお分かりになるかと思います。
サウンドトラックも、リミックスやピアノバージョンなど多数のCDが発売されています。
高校生の男子新体操のインターハイでも使用されたりと、必聴です。
・登場人物たちの境遇
主人公と妹の境遇は上記で書いた通りですが、主要キャラが総じて不遇です。
村の住民から迫害され、村の外で暮らす女性、カイネ。
口は悪く、伏字だらけの発言も多いが、時折主人公たちに向ける優しさがぐっときます。
なにより、恰好とルックスがヤバいです。何がヤバいのかはその目で確かめてみてください。
見た者を石にしてしまう少年、エミール。
画像検索をしていただくとお分かりになるかと思いますが、上の画像の骸骨のようなルックスですが、もともとはとてつもないほどの美少年です。彼は想像もつかない生い立ちから、その姿になるのですが、ストーリーにキモになるので、ここで語るのはやめておきます。
よくもまぁこんなにも暗く重たいストーリーを考えつくな、と思います。
救いがなさすぎる。
こんな人にオススメ
・鬱ゲーをやりたい
・暗いストーリーを観たい
・バックグラウンドンドの考察ができる、深い内容のゲームがやりたい
・壮大な音楽に浸りたい
PS3をお持ちの方は是非、プレイしてみてください!
青春って泥臭い-青空のルーレット
今回は小説の紹介です。
今回は短めにサクっといきます。
『青空のルーレット』
著者:辻内智貴
出版:光文社
皆さんご存知でしょうか。
2007年には塩谷瞬主演で映画化されました。
その原作は、単行本は2001年に、文庫版は光文社文庫から2004年に出版されました。
著者は辻内智樹貴です。
私は中学生の時にこの本に出会いました。
書店で平積みにされている中で、この表紙に目を奪われ即刻レジに向かったことを今でも鮮明に覚えています。
いわゆる小説の「ジャケ買い」ですね。
抜けるような青空。
なんと素晴らしい写真なのでしょうか。
「青い空に浮かんで、俺達はビルの窓を拭くーーーメシを喰うために、家賃を払うために。
けれど俺達はそれぞれやりたいことを別に持っている。音楽、芝居、写真、マンガ……。
だから、俺達が窓を拭いているのは、夢を見続けるためなのだ!
熱く純なハートを持つ男達の夢と友情を感動的に描いた表題作。
ほかに、第十六回太宰治賞受賞作『多輝子ちゃん』を収録する。」
良くも悪くも、このあらすじにすべてが込められている、読了後私はそう感じました。
本作の魅力は想起しやすい描写にあります。
平易な文体に小気味良く進んでいくテンポ。
今読むと、驚くほどさらっと読み切れてしまいます。
難しくないからこそ、本の中に引き込まれていきます。
青空の下、ビルのてっぺんから釣り下がり、窓を拭いている人たちを見たことがあるかと思います。
その男達に焦点を当て、作者が描きたかったものは、「生きる」とは「夢をみる」ことなんだということ。
淡々と日常は過ぎていくが、上手く流れていくことができない人たちもいる。
もがきながら夢を追っている。
リアルな現実を温かな登場人物たち泥臭く彩っている、そんな作品です。
まるで映画を見ているような、上手い盛り上がりの作り方。
特にクライマックスシーンは情景が浮かんでくると思います。
また、強く推したいのが、あとがきまでしっかり読むことです。
読めばまた一段、本書を好きになると思いますよ。
それでは最後に。
本当にいい作品です。
しのごの言わずとにかく読め!!!!
人間の泥臭さと詩的表現-黒木渚
こんにちは。
あおひとです。森博嗣に続き熱量を込めて書いていきます。
今回はシンガーソングライターである、黒木渚の紹介をしたいと思います。
美しいですね。
黒木渚、喉の療養のため、只今休業中ですが(平成28年4月時点)名前を聞いたことのある人も少なくないと思います。
「独創的なメロディー」と「文学的な歌詞」
黒木渚を紹介する文言としてはあまりにも巷にあふれている言葉です。
しゃべくり007にも出演したことのある彼女。
はたして何がそんなに魅力的なのか。
私は声に全て詰まっていると考えています。
女性にしてはとても力強く、それでいて鮮やかさがある、そんな声です。
その声に乗るとても耳ざわりの良い、心地よいメロディー。
それでは、楽曲を基に解説していきます。
あたしの心臓あげる
https://www.youtube.com/watch?v=kuF0XiUB6qA
いきなりメンヘラチックなタイトルが…。
この曲が黒木渚のデビューシングルです。PVもおどろおどろしい雰囲気となっています。(上のURLです)
何処か儚く、それでいて印象的な声、黒木渚の持つ魅力が存分に発揮された作品になっています。
また、ギターのコードを取り出して聴くと終盤の転調まで4つの音色のみで構成されていることがわかります。
一見複雑そうですが、これがすんなり入ってくる所以となっているのでしょう。
骨
https://m.youtube.com/watch?v=c6N4uBKZeeU
黒木渚の楽曲で最も物議を醸した曲ではないかと思います。
儚げなイントロから続く明るい声。
「死んだ後でも 楽しめるように 墓石に点数を彫ろう」
こんな歌詞、果たしてどんな人が書けるでしょうか。
この歌詞に怯まず、向き合って聴いてみるとそれこそ文学的で、物語を紡いでいるかのような情景が浮かんできます。
ドラム・ベースに着目すると、無駄な装飾の無いソリッドな演奏が判るかと思います。
一作品としてとても完成度の高いものに仕上がっています。
大予言
https://m.youtube.com/watch?v=n1YxvKIuHtk
華やかな音、明るい曲調に乗るこの社会の混沌としたイメージ、あぁ黒木渚節だ、と思わせる楽曲です。
この曲に関して最も言いたいことは、全ての楽器もとてつもなく難しいことをやっている、なのにそう聴こえないということです。
また、PVの絵本調なところも個人的にはポイントが高いです(笑)
ふざけんな世界、ふざけろよ
https://m.youtube.com/watch?v=EaZRu-sCIh8
これぞ、黒木渚。
彼女の魅力が全て詰まっていると言っても過言ではありません。
明るくて暗い、前向きでネガティブ、楽天的で厭世的。
あぁ、聴いていて楽しい。
人生を数分間に詰め込んでいる、そう思わせる楽曲です。
「駆け上がって転げ落ちて人生はコメディ
何度でも木っ端微塵になって やけくそで立ち上がって」
その通りだと思いませんか。
私は昨年の夏フェスで初めて黒木渚を見て、聴きました。
その際に思ったのは「この人、なんて楽しそうなんだ」ということです。
観客の前で、自分の声で、演奏をする。
アーティストであれば当たり前のことをひたすらに楽しんでいました。
彼女の他の楽曲を聴く前にその立ち姿を見て確信していました。
「あぁ、良い曲を書くのだろうな」と。
皆様も是非、華やかで儚げな混沌をお楽しみください。