一言で戦争は起こせる-虐殺器官
著者:伊藤計劃
出版:早川書房
頁数:432頁
夭折の作家、伊藤計劃のデビュー作『虐殺器官』。2007年に出版されました。
「ベストSF2007」国内篇第1位・「ゼロ年代SFベスト」国内篇第1位で、2010年にハヤカワ文庫から文庫版が刊行されました。
フジテレビ「ノイタミナムービー」の第2弾「Project Itoh」として劇場映画化もされたため、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
あらすじ
サラエボで発生した核爆弾テロによって世界中で戦争・テロが激化した結果、アメリカを始めとする先進諸国は厳格な個人情報管理体制を構築しテロの脅威に対抗していた。十数年後、先進諸国からテロの脅威が除かれた一方、後進国では内戦と民族対立により虐殺が横行するようになっていた。事態を重く見たアメリカは新たに情報軍を創設し、各国の情報収集と戦争犯罪人の暗殺を行うようになった。
アメリカ情報軍に所属するクラヴィス・シェパード大尉は、後進国で虐殺を扇動しているとされるアメリカ人ジョン・ポールの暗殺を命令され、相棒のウィリアムズら特殊検索群i分遣隊と共にジョン・ポールの目撃情報のあるチェコ・プラハに潜入する。プラハに潜入したクラヴィスは、ジョン・ポールと交際関係にあったルツィア・シュクロウプの監視を行うが、次第に彼女に好意を抱くようになる。
ある日、クラヴィスはルツィアにクラブに誘われ、そこで政府の情報管理から外れた生活を送るルーシャスたちと出会った。その帰路で、クラヴィスはジョン・ポールに協力するルーシャスら「計数されざる者」に襲撃され拘束されてしまう。拘束されたクラヴィスはジョン・ポールと対面し、彼から「人間には虐殺を司る器官が存在し、器官を活性化させる“虐殺文法”が存在する」と聞かされる。ルツィアを監視していたことを暴露されたクラヴィスは、ルーシャスに殺されそうになるが、ウィリアムズら特殊検索群i分遣隊の奇襲によって救出されるも、ジョン・ポールとルツィアは行方不明になってしまう。
小難しいどころか、文学的な側面すらある文体が並びます。
本としても分厚いため、最初は踏み込みづらいかもしれません。
そのため最初にアニメ劇場版から入ってもよいかと思います。
作者 伊藤計劃について
『虐殺器官』でデビューしてからわずか2年ほどで肺癌により逝去。
後継作の『ハーモニー』や『屍者の帝國』も虐殺器官のように映画化されました。
題材やその緻密な文体により作品数は少ないもののファンを獲得しています。
伊藤計劃の作品の良さは絶対なまでのリアリティ。また、傾倒している文学を底の底まで取り入れきっている点。
お蔭で本をこれから読みたいなーくらいの人にはハードルが高いのも事実ではありますが。
そんな方はせっかくなので、アニメからご覧ください。
もう一度青春をやり直したい-放課後に死者は戻る
著者:秋吉理香子
出版:双葉社
頁数:256頁
高校生の時に読んでおきたかった本の紹介を。
あらすじ
「病院で目が覚めると、冴えないオタクだった僕の見た目は、イケメンの姿に変わっていた。
そうだ、教室の机に入れられた手紙で呼び出され、僕は誰かに崖から突き落とされたのだった……
助けに入ったイケメンと一緒に。
退院した僕は、元いたクラスに転校生として潜入した。
一体、誰が僕を殺したのか?
僕は、僕を殺したクラスメイト探しを始める――。切なさと驚きに満ちたラストが待ち受ける、傑作長編ミステリー。」
クラスで空気のような存在の小山のぶおは、手紙で呼び出され、崖から突き落とされる。病院で目が覚めると、イケメンになっていた。記憶を呼び起こすとそのイケメンは崖から突き落とされたとき助けてくれようとしていた男であった。
状況から考えて犯人はクラスの中にいることがわかり、自分を殺した犯人を見つけるため元の自分のクラスへ転入するーーー。
導入はこんな感じです。
入れ替わり、自分を殺した犯人を探す、というありきたりな設定を用いているにも関わらず、結末が予想できなかったのはこの著者の凄いところ。
徐々に犯人像をつかんでいく主人公に対し、「真実を知る者」から犯人の探索をやめるよう連絡が入るなど、緊迫感を出すことも忘れないが、常に漂っているのは、青春ストーリー感。
スクールカールトの底辺にいるような主人公が、急に最上位にくる。サッカー部の所謂”ウェイウェイ”系の少年たちと接し始め、自らが距離を取っていたのだと気付く。
死んで初めてその点に気付かされるという切なさが胸を打ちます。
またこの入れ替わったイケメンが本当にイケメンすぎて辛い!!!!
顔もいい、家も裕福、ギターも超絶うまい、めちゃめちゃかわいい彼女がいる、ともうこんな人現実にいるかよってカンジです。
ただ、不思議と嫌みのないのがこの著者が書く登場人物です。
ありきたりなミステリーなためエンディングをいろいろと予想しながら読んでもよい意味で綺麗に裏切られます。
本当にサクサク読めすぎてしまうそんな青春ミステリーはいかがでしょうか。
追ってくる自身-バイロケーション
著者:法条遥
出版:角川ホラー文庫
頁数:421頁
手に汗握るホラー小説はいかがでしょうか。
あらすじ
主人公は画家志望の女性。
ある日、新婚の忍はスーパーマーケットで偽札使用を疑われ、警察に通報されてしまう。しかしやってきた警察官・加納に連れて行かれたのは警察ではなく、高級フランス料理店「アンリス」だった。
そしてそこで忍は”バイロケーション”という自分と寸分違わぬ容姿をして、オリジナルの記憶も知識も全て持っているもう1人の自分というものが世の中に存在しており、そのバイロケーションによって生活を乱されている人が他にもいるため、情報交換や対策を立てる会を発足しているということを聞かされる。
到底信じられない忍は、その場にいた加納を含めた他のメンバー(飯塚・門倉・御手洗)からの会への誘いも断ったが、その後も度々バイロケーションに遭遇したため、バイロケーションに夫をとられてしまう可能性も危惧して会への参加を決めた。
情報交換が主であった会での対策は、バイロケーションを捕まえて殺し、その後の経過を観察するという第2段階に突入しようとしていた。
警官という職業柄、拳銃を所持している加納のバイロケーションがその対象として選ばれたが、実際に捕えて医師の御手洗が解剖した翌日、本物の加納が自宅で遺体で発見される。殺したのはバイロケーションではないかと考えた飯塚は会のメンバーそれぞれに護衛をつけたが、今度は門倉が政令病院の中の倉庫内で角材で殴り殺された状態で発見された。またしても密室状態だった。警察はその病院に勤める御手洗に疑いをかけて連行していったが、その後忍は「自分がオリジナルである」と主張する御手洗に呼び出されたり、再び現れた死んだはずの加納に「飯塚の亡くなった奥さんを調べろ」と言われたりと混乱し、質問に何も答えようとしない飯塚にも不信感をつのらせる。
誰も信用できなくなっていた忍に、会にほとんど参加していなかった加賀美が、「僕はあなたが知りたいことは全部知っている」と言う。そして新幹線のチケットを渡された忍は、加賀美とともに飯塚の地元へと向かう。
バイロケーションの特徴
・バイロケはもう1人の自分であるため、番号が同じ紙幣やクレジットカードなどの所持品から髪の毛や爪の長さまで、オリジナル(本人)と寸分違わず差異は何もない。
・長時間出現していられないドッペルゲンガーと違い、出現している時間や場所、条件は完全にランダムで法則性は無い。しかしながらオリジナルの周囲に出現する可能性が極めて高く、あまりにもオリジナルから離れすぎると消えてしまう。
・バイロケはオリジナルの記憶も知識も全て持っているため、自分がバイロケであることに気づかない。また、外部からもオリジナルとの差異を発見することはほぼ不可能。
・バイロケにはオリジナルの記憶+自身で活動した記憶が残るが、オリジナルはバイロケが活動した記憶は共有しない。
・バイロケは外部に何かを”発信”することができないため、指紋が残らず、光を反射しないため鏡に映らない。食事はするが、摂取した食物がどう処理されているかは不明。
・・・こんな特徴をもった自分に命を狙われるそんな物語です。
そもそもの設定+随所に秘められたトリックで頭が混乱しそうになるかもしれません。
読んでいるうちに徐々に自分が命を狙われているように錯覚します。
正直ただ最初は怖いだけの小説かと思い読んでいましたが、最後の最後で仕掛けが待っていました、、、
詳しくは読んでみてください!!!
美麗な音楽-Olegano
無名の天才、Oleganoの紹介です。
elegantdisc所属のソロアーティスト、「Olegano」
まずは、聴いてみてください。
いかがでしょうか。この幻想的な楽曲。浮遊感のある音色を重ねた奥深いエレクトロニカ。
北欧の草原にいるようなそんな気分にさせてくれます。
一方で、これ。
ギター一本でここまでの表現力。
心が現れますね。タッチの繊細さが音の随所から伝わってきます。
どんだけ訓練したらこんなにバラバラに指動くんだ、、、。
Youtubeにしか音源がないのですが、これもとても聴かされる良い曲です。
まるでロールプレイングゲームの世界に舞い込んでしまったようなそんな錯覚に陥らせてくれる曲です。
このアーティスト、演奏から打ち込み、マスタリングまで一人で行っています。
さらにはトップに差し込んだジャケットも自ら手掛けております。
多彩。まさに多彩と呼ぶにふさわしい。
若干25歳にしてこの多彩さ。
天才っているんですね。
今、手に入れられる音源はアルバム1枚のみですが、ダイジェストが下記から聴くことができます。
正直なところアルバムを1枚通して聴いてこそ真の魅力がわかると思います。
気になって方がいらっしゃれば↓から購入してみてください。
ドストレートどんでん返し!-屋上のテロリスト
著者:知念実希望人
出版:光文社
頁数:366頁
エンターテインメント。
そう呼ぶにふさわしい小説です。
完全にジャケ買いをしましたこの本。
そして読了後見直して、思わず「おぉ、、、!」って声が漏れました。
やはり装丁まで楽しめるのも本の楽しいところですね。
あらすじ
「一九四五年八月十五日、ポツダム宣言を受諾しなかった日本はその後、東西に分断された。そして七十数年後の今。「バイトする気ない?」学校の屋上で出会った不思議な少女・沙希の誘いに応え契約を結んだ彰人は、少女の仕組んだ壮大なテロ計画に巻き込まれていく! 鮮やかな展開、待ち受ける衝撃と感動のラスト。世界をひっくり返す、超傑作エンターテインメント!」
主人公は「死」に憧れる自殺願望のある男子高校生。学校の屋上で出会ったのは不登校だった少女。彼女は莫大な財産を有しており、テロを計画している。その手伝いをしてくれないかという誘いを受ける少年。
テロを成し遂げれば報酬として殺してくれる、という。
舞台背景は第二次世界大戦の時に日本が東西に分断されている設定。
また年代は奇しくも2017年。
そのあたりも現実と比較しながら読むと楽しいです。
(2017年終了まであと1か月もないですが)
少女に翻弄される大人たち、徐々に明らかになっていく計画の全貌。
それが少年の目を通して描かれていきます。
正直に言いますと、王道中の王道。予定調和のように話が進んでいきます。
なのに目が離せなくなる。著者の描くシーンやその文体がとても小気味よい故です。
「こうくるだろう!」と思ったら、その通りになる。でも新しい要素や、トリックが散りばめられており、飽きさせない。
駆け抜けていくような読了感。
青春小説とはかくもこうあるべきではないでしょうか。
文明の先にあるもの-Horizon Zero Dawn
皆様はオープンワールドのゲームはやりますでしょうか。
今回はPS4のゲームの紹介です。
大災厄によって人類文明が闇に包まれてから1,000年後、人類に代わって機械の獣たちが大地を支配する世界が舞台となる、『Horizon Zero Dawn』(ホライゾン ゼロ ドーン)。
人間の生活した痕跡は自然に飲み込まれ、世界は原始の世界へと逆行してしまった。
旧世界から引き継いだいくつかの知識はあるものの、人間もまた同じく原始時代のように部族を作り、狩りを行なって生きるレベルまで退行してしまっている。一方で、現在地上を支配しているのは、獣を模した機械たち。
本作で生態系の頂点に君臨している機械獣。その名の通り、姿や行動までも本当の獣のように作られた機械で、おとなしいものもいれば凶暴なものまでさまざま。例外はあるものの、現実に我々が生きている世界での動物を模しているため、プレイヤー視点では姿を見ただけで凶暴化そうでないかは見分けることができる。無機物な機械が、有機的な姿をとって息づいているのは独特な魅力があり、眺めているだけでもおもしろい。
世界が何故ここまで変貌を遂げてしまったのか、また主人公の出生の謎を解き明かすため、この原始の世界を奔走します。
このゲームの何が魅力的かというと、圧倒的にグラフィックにあります。
草木の息遣いや天候の微細な変化、機械生命体の金属の重厚感や電気的な印象、全て仔細に表現がなされています。
いろんなソフトを遊んできましたが、これが最もPS4のスペックを発揮できていると感じました。
ゲームの内容は、誤解を恐れずに言えば”機械版リアルモンハン”という感じでしょうか。
槍・弓・スリング・罠を用いて敵を排除したり、素材を集めて武具を強化してストーリーをクリアしていくシステムです。
敵は勿論機械生命体が主ですが、敵対する部族の人間であることもあります。
そのため細かい操作性を求められることも多く、難しいゲーム性を求める人にとっても嬉しいポイント。
またゲームを進めていくと「オーバーライド」という機械生命体を操るスキルを身に着けることができ、小型のものであれば騎乗することも可能です。
これが結構面白い。騎乗しながら戦い、敵が増えてきたら降りて共に戦うことも。
機械生命体との戦闘はとてもシビアで真っ向からいくとすぐに倒されてしまうこともしばしば。(むしろその方が多いです)
そのため、罠を設置しそこに追い込み仕留める、だとかヒットアンドアウェイで少しずつ削るとか、気づかれないくらい遠くから弓で射る、など様々な戦法を駆使しながら戦わなければいけません。
それがまた楽しい。
オープンワールドのフィールドの広さのちょうどよさを相まってとても良いゲームになっています。
実際に本作は「PlayStation® Awards 2017」でGold Prizeとユーザーズチョイス賞を受賞しました。
Gold Prizeは日本を含むアジア地域で累計生産出荷数・配信数が50万枚を超えたタイトルに贈られる賞、ユーザーズチョイス賞は同地域のユーザーによる投票数の上位10タイトルに贈られる賞となります。
PS4をお持ちの方、Horizon Zero Dawnは絶対に勝っておくべきゲームですよ。
本日から追加コンテンツも入り値段もお手頃になったCompleteEditionが発売です。
本格ミステリのはしり-十角館の殺人
著者:綾辻行人
出版:講談社
頁数:512頁
1987年に出版された綾辻行人のデビュー作です。
上記画像は2007年に出版された新装改訂版のものです。
「館シリーズ」第一作として注目を集め発行部数は100万部を突破しています。
日本ミステリー界に大きな影響を与え、新本格ブームを巻き起こしたとされています。
あらすじ
「1986年3月26日、大分県K**大学・推理小説研究会の一行は、角島(つのじま)と呼ばれる無人の孤島を訪れた。彼らの目当ては半年前に凄惨な四重殺人事件が発生した通称・青屋敷跡と、島に唯一残る「十角館」と呼ばれる建物である。彼らはそんな島で1週間を過ごそうというのだ。
一方その頃、本土では、研究会のメンバーに宛てて、かつて会員であった中村千織の事故死について告発する怪文書が送りつけられていた。怪文書を受け取った1人である江南孝明は、中村千織の唯一の肉親である中村紅次郎を訪ねる。」
王道ミステリー!!!
読み進めやすくそれでいて謎が各所にちりばめられている。その謎も一筋縄ではいかない。
「ミステリー小説を読みたい」って人がいたら、本書を渡しますね。
過去に殺人事件が起こった島に1週間籠る学生たち。しかも自分たちの呼び名を高名なミステリー作家からとっている。(アガサ、エラリィ、等々)
もう上を見るだけでいかにもトリックが散りばめられていそうな感じがしませんか?
そう、理不尽な殺人が行われていきます。
徐々に明らかになってくる学生たちの素性、周辺の環境、過去の行い。
誰が犯人なのか過去の殺人事件の秘密が暴かれていくにつれて容疑者が絞られていきます。
はたしてその推理もあっているのか?
かねてから紹介しております森博嗣作品は動機もトリックも説明しないことがありますが、本書はそんなことはありません。
読了後はそれはもうスッキリです。
あぁ、本読んだなぁ、とそんな感慨にふけることができます。
本格ミステリを楽しみたい方から、読書をあまりしない方まで楽しめる、そんな作品です。