超自然ファンタジー-華竜の宮
著者:上田早夕里
出版:早川書房
頁数:398ページ(上)458(下)
海面が上昇し、陸地が極めて少なくなった25世紀の地球が舞台となっているファンタジー長編です。
あらすじはこちら。
「ホットプルームによる海底隆起で多くの陸地が水没した25世紀。人類は未曾有の危機を辛くも乗り越えた。陸上民は僅かな土地と海上都市で高度な情報社会を維持し、海上民は“魚舟”と呼ばれる生物船を駆り生活する。青澄誠司は日本の外交官として様々な組織と共存のため交渉を重ねてきたが、この星が近い将来再度もたらす過酷な試練は、彼の理念とあらゆる生命の運命を根底から脅かす―。」
最初に言っておきます。
よくわからない言葉が続々と出てきます。
けど、読み進めてください。
あっという間に夢中です。
主に登場するのは、陸上で生活する民とそれをサポートする知的生命体(AIだと思ってください)のペアと海上で生活する民とそれが操る魚船(人が住むことのできる鯨のような生命体)のペアです。
極小となってしまった陸地と、遺伝子改変によって産みだされた海上民。
陸上では海上民を保護しようという一派と駆逐せよという一派で争う。
海上においても生きる場所を奪い合う人間と動物。
陸上民と海上民でも争いが絶えない。
弱肉強食が続いていきます。
そこで描かれる各登場人物の人間臭さ。
壮大なストーリーではありますが、内包しているのは個々人の物語。
感情移入が止まりません。
陸対海、正義対権力、未来を信じる人々対世界のゆるやかな絶望。いろんな価値観のぶつかり合いがリアルで臨場感満点。
表に出てこない設定もたくさんあるんだろうなと思えるくらい説得力のある世界設定。
また主人公は熱血一辺倒ですが、それがまたいい。
絶望しかない世界で希望を産みだそうと奔走する主人公とそのパートナーが見せる絆に涙腺がやられます。
SFといえば電脳化や機械化された人間やロボットや整備された未来都市というイメージがあるかと思いますが、本書はいまある自然の延長で描かれています。
イメージとは違うSFがそこには広がっています。
この話では、沢山の人が死にます。 ただ生きていた人、最後まで抗った人、犯罪者、信念を持った人。 その死が悲しく、悔しく、惜しく思うけど、最後の一文が、すべてを慰めてくれる、そんな物語です。